【弁護士に聞く】留学エージェントのトラブル6~公正取引委員会が指摘する留学広告の不明瞭な表示
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『【弁護士に聞く】留学エージェントのトラブル』シリーズの第6弾です。今回は、留学エージェントに関する代表的な苦情の一つ、「表示されている留学サービスと実際の内容が違う」という問題について取り上げます。
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弁護士への取材を通じ、ここまで数々の留学エージェントの問題点を紹介してきました。第6弾の今回も引き続き留学業界に詳しい弁護士への取材を元に、「留学エージェントが表示しているサービスと実際のサービス内容が違う・分かりにくい」という問題点を取り上げます。
公正取引委員会の調査
表示に関する問題は、国民生活センターに寄せられる留学エージェントに関する苦情・相談の代表的なものの一つです。そうした現状を受けて、2006年に公正取引委員会が、留学サービスに関するパンフレット54点を集めて分析し、関係者や苦情申し立て者からのヒアリングを行いました。その結果、下記の問題点を指摘し、改善案を提案しています。
紛らわしい社名表示
<問題点>
『○○協会』
『○○センター』
このような呼び名・社名の留学エージェントは数多くあります。これは一企業である留学エージェントの呼び名や社名に過ぎないのですが、利用者にとっては、『○○協会』『○○センター』という名が付いていることで、その留学エージェントが公的機関だと勘違いしてしまう可能性があります。
多くの留学エージェントが『○○協会』『○○センター』という、一見、公的機関のように見える呼び名・社名を使うようになった背景には、かつては留学というのは、公的機関のみが扱うもので、一企業が扱えるものではないと広く認識されていたことがあります。
おそらく今でも、そのように認識している人はたくさんいると思います。そういう人たちに安心感を持ってもらうために、多くの留学エージェントが公的機関に類似した名称を社名として用いるようになりました。
確かに、公的機関であれば、それは留学の専門家で留学について熟知していると誰もが思うでしょう。
<改善案>
こうした利用者の混乱を防ぐため、下記のように記載すべきだと公正取引委員会は提案しています。
・屋号と会社名が別の場合は、『○○協会』『○○センター』と並べて『株式会社××』と記載すべき。
例)『○○留学センター・株式会社××』
・屋号と会社名が同一の場合は、『株式会社○○センター』と記載すべき。
例)×:○○センター ○:株式会社○○センター
不明瞭なプログラム表示
<問題点>
『カリフォルニア大学ロサンゼルス校で英語研修』
『名門大学オックスフォード大学での英語研修と学生寮体験』
『シドニー大学のキャンパスで、国際クラスの英語研修!』
どれも留学の宣伝広告でよく見る見出しです。これらの見出しを見て、皆さんはどんな感想を持つでしょうか?
「大学が実施する英語の授業を受けられる!」
「大学主催の英語研修なら、きっと効果も高いに違いない!」
そんな感想を抱いた人もいると思います。もちろん、その認識通りのプログラムもあります。でも中には、大学とは無関係の語学学校がプログラムを主催しており、大学内の施設を借りて授業を行っているものもあるので注意が必要です。
公正取引委員会が調査した54点のパンフレットの内、実に21点にこのような不明瞭な表示がありました。
<改善案>
プログラムの運営主は大学ではなく、語学学校であることを、もっと明確に表示すべき。
日本人比率の表示
<問題点>
『日本人比率○%』
『日本人割合○%』
出来るだけ日本人が少ない学校に行きたいという留学希望者は多く、留学先を決めるに当たり、たくさんの人が各学校の日本人の割合を気にしています。しかし、「日本人比率5%=自分が受講するクラスの日本人比率も5%」と考えるのは早計です。
一般的に、留学のパンフレットに記載されている日本人比率は学校全体の平均値である場合が多く、実際に受講する時期・クラスの日本人比率は必ずしもそれと同等ではありません。
とかく、日本人は文法は得意だけれど話すのが苦手という人が多く、初級~中級レベルのクラスに日本人が固まってしまうことが多いです。日本の大学の長期休みに当たる春と夏は、日本人数が大幅に増加する傾向があります。
<改善案>
時期、クラスによって日本人比率が大きく異なることを明確に表示すべき。
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不明瞭なホームステイ形態表示
<問題点>
『使える英語や文化を体験するなら、ホストファミリーの家族の一員に!』
『ホームステイはその国の一般家庭に家族の一員として暮らし、生活を共にすることで、身近に異文化を感じ、体験できることが魅力です。』
『ホストファミリーの日常に溶け込む暮らしの中には、海外をリアルに体験できる小さな発見や驚きがいっぱいです。』
ホームステイの良い部分の魅力を伝える素晴らしい見出しです。これらの見出しの内容は嘘ではありません。ただ、ホームステイを体験した人100%がこのような体験ができるかというと、そうではありません。
ホームステイの宿泊形態は、大きく分けて2つあります。部屋と食事を提供するだけの下宿型のホームステイと、留学生を家族の一員として受け入れるボランティア型のホームステイです。これらは、ホストファミリーとの契約で決まっています。
見出しのようなホームステイ体験が高い確率でできるのは、おそらく後者のボランティア型のホームステイです。一方で、留学エージェントや語学学校の多くが斡旋しているホームステイは前者の下宿型のホームステイになります。
下宿型ホームステイの場合でも、現地の家庭生活を体験させてもらえることもありますが、それはホストファミリーの好意によるもので、契約上約束されているものではありません。
留学希望者の多くはそうした内情を知らないので、見出しの通り、ホームステイをすれば現地の家庭生活を体験することができると認識してしまう恐れがあります。
<改善案>
現地の家庭生活を体験することが契約上約束されているホームステイか、下宿型のホームステイでホストファミリーの好意により現地の家庭生活が体験できる場合もあるのか、というホームステイの形態を明確に表示すべき。
ホストファミリーの言語環境の表示
<問題点>
「まずは日常会話のマスター。ホームステイだから機会も沢山。」
「学校で学んだ言葉を家に帰ってすぐ実際に使う場がふんだんにあるからこそホームステイで英語を学ぶ価値があります。」
「家族の一員として温かく迎えてくれるホストファミリーの存在は、日常生活の中で習慣の違いを体感しながら英語力をアップさせることができるだけでなく、時には大きな心の支えとなってくれることでしょう。」
英語圏の国でホームステイをしたら、当然、家庭での会話は英語だと、誰もが思うでしょう。しかし現代では、英語圏以外の国から移住してきたホストファミリーもたくさんいます。その中には、家族間の日常会話は英語以外の言語を用いている家庭もあります。
もちろん留学生と話す時は英語を使うでしょうが、家では四六時中英語を耳にすることを期待していた留学生にとっては、期待外れです。
<改善案>
ホストファミリーが日常会話において英語をどの程度使うのか等を明確に表示すべき。
まとめ
ここに挙げた表示に関する問題はすべて、景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法)の考え方に則って、公正取引委員会が指摘しているものです。
事業者が利益増大のために、商品・サービス内容の表示(キャッチコピー・説明文・写真等)を消費者にとって魅力的に見えるよう広告を出すのは、ごく普通のことです。しかし、その表示が不当(虚偽や誇大、不明瞭)だと、公正ではなくなり、消費者の適正な商品・サービスの選択に悪影響を及ぼしてしまいます。これを防止し、消費者が適正に商品・サービスを選択できる環境を守るために、景品表示法が存在します。
どの業界も、この景品表示法を順守した上で宣伝を行っています。しかし残念ながら、留学業界では、この景品表示法の順守徹底がなされていないのが現状なようです。
今までの記事で留学業界には法規制がないこと、改善の兆しがなかなか見られないことを指摘してきましたが、この表示の問題に関しても、改善されるにはまだまだ時間が掛かりそうです。
留学希望者が気を付けるべきこと
複数回の留学経験がある筆者個人としては、特にホームステイに関する表示の仕方に関しては微妙で難しいところもあると思います。
ホームステイを楽しめるか否かは、人と人との相性、留学生の積極性によるところも大きく、一概にボランティア型のホストファミリーの元でホームステイしたからと言って、現地の家庭生活を体験できるとは限らないからです。逆に、下宿型のホームステイでも、積極的にホストファミリーと関わろうと努力し、実りあるホームステイを体験する人もいます。
「移民ではなく、代々生粋の英語ネイティブの家庭でホームステイしたい」と思う気持ちも分かりますが、移民の人々もその国で市民権を得たその国の住民です。グローバル化が進む現代では、移民のホストファミリーの数は益々増えることでしょう。「移民以外の家庭」とリクエストすること、ホストファミリーの人種を事前に知ろうとすることは、人種差別に当たってしまいます。
留学エージェントを利用する場合、担当のカウンセラーがそうしたことをしっかり説明し、ホームステイの心得などを教えてくれれば問題ないのですが、そこまでケアが行き届いていないエージェントもあります。エージェントを利用しない留学希望者にとっては、広告から得られる情報がすべてで、その実情を知ることはなかなかできません。
そういう風に考えると、やはり留学やホームステイの魅力を伝える以前に、正しく明確に広告表示をするのは大前提と言えます。今、留学希望者ができることとしては、こうした留学・ホームステイの知識・心得を持った上で、留学に関する広告を見る事ではないでしょうか。
自分で自分の留学を作ることが大切
留学は一人一人違うものです。例え100人の留学生が同じプログラムに参加しても、そこには100通りの留学プラン・体験談があります。留学に関する広告内容を鵜呑みにはせず、「もし自分がこのプログラムに参加したら、どんな留学生活が送れるだろう?どんな努力をしようか?そのために、今何をすべきか?」と自分でイメージし考え、自分で自分の留学を作っていくことが大切です。
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この記事を書いた人
訪問国数44ヶ国、現在スペイン在住。留学・語学学習・海外生活の知識が深まる情報を海外からお届け。