カナダ・トロントに留学するだけで本当に英語が身に付くのか?
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言語を習得するには、その言語が話されている土地に行って暮らすのが一番良いとよく言われます。果たして本当にそうなのでしょうか。英語を習得するためにカナダ、トロントを留学先に選んだ方、または検討中の方に是非とも知っておいてほしい心構えを筆者の目線でお伝えしたいと思います。
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「イマージョン」という言語習得法
言語を習得する際に、その言語が話されている環境に身を置くことで自然と習得を図る方法を「イマージョン(immersion)」といいます。この「immerse」という単語には「水の中につかる」という原義があり「まるで水の中にもぐりこむように、その環境に浸る」という発想から、言語という名の海にもぐり、どっぷりとつかりこむことを「イマージョン」と呼んでいます。
この「イマージョン」という方法は、教育上よく活用されています。例えば、日本で生活している日本語しか話さない家族が、子供に英語をネイティブスピーカー並みに習得して欲しいと願うことから、アメリカンスクールやインターナショナルスクールなどの英語が公用語として話されている学校へ通わせることが、イマージョンに当たります。
似たようなケースとして、カナダでは、子供に将来有益であるフランス語を習得させるために、英語圏の州に住んでいながらフランス語が公用語の学校へ通わせたりします。その際に、全ての教科・活動がフランス語である「フル・イマージョン(Full Immersion)」の学校と、フランス語での指導に加え特定の教科や活動は英語での指導がなされている「パーシャル・イマージョン(Partial Immersion)」という学校の選択肢があり、いわば、言語環境の度合いを選ぶことができるようになっています。
これらは、自分たちの住む土地から極力移動せずに行うイマージョンの例ですが、留学はイマージョンの最たるものと言えます。
では、そもそも、なぜ「イマージョン」という方法が言語習得に有効とされているのでしょうか。これは、私たちが幼少期に自然と母国語を習得していく様子がモデルになっているといわれています。生まれて間もなくして、その言語が話されている環境に四六時中身を置くことで、私達は親や他の大人達の話し方を真似たり、吸収することによって、自然と話せるように育ちます。
このようにして一つの言語を習得できているのだから、きっと第二言語以降も習得できるに違いないと適応されているのがイマージョンと言えます。
イマージョンの盲点
しかし、このイマージョンという方法には盲点もあります。まず、心理学や言語学の世界では「臨界期(critical period)」という論があり、これはある年齢を過ぎると、言語の習得が徐々に困難・または不可能になるというものです。この「ある年齢」というのには個人差があり、その境界線を「臨界期」と呼ぶのですが、平均的には9〜10歳頃とされています。つまり、この「臨界期」の年齢を過ぎると、いくらイマージョンであっても、文法や発音的にネイティブスピーカーと同等の言語能力を得ることは難しいという説です。
実際にカナダで暮らしていると、この論を実証するかのような人々にたくさん出会います。例えば、10歳を過ぎてカナダに移民してきた人の多くは、流暢に英語を話せるけれども、発音に母語の訛りが残ったままであったり、文法面でもネイティブスピーカーであれば犯さないミスを犯します。
子供であってもネイティブスピーカーになることが難しいのですから、大人であればなおさらのことです。イマージョンで最大の効果を得るためには、それを始める年齢を十分に考慮しなければならないでしょう。しかし、「臨界期」を過ぎてしまったからと言って、言語習得の可能性が絶たれたわけではありません。習得できるレベルこそ限界があるかもしれませんが、心得次第では、立派な成果を上げることもできるのです。
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大人がイマージョンで功を奏すには
大人がイマージョンを通して成果を上げるときに考えられるのは、その言語を話す「必要性」です。社会の中で生活するためには、常に誰かと話をしたり、コミュニケーションをしなければならない場面に遭遇します。
このとき、相手へ自分の意思をどう伝えるか、自分がこの場面で生き抜くためには何を言わなければいけないのか、ということが必要となり、この必要性が学習意欲へと変わっていくのです。過去に多くの大人たちがイマージョンという方法で言語を身に付けることができた理由には、その土地で生き抜くためにこの必要性に迫られて習得するしかなかったという現実があり、これが定説になったのだと思います。
しかし、現代にこの考えは通用するでしょうか。今や、知りたい情報はインターネットを通じて手軽に入手できるようになりました。他人とコミュニケーションをしなくても、自分の欲しい情報を手に入れるできるようになった今、コミュニケーションの必要性も過去ほど迫られずに済むかもしれません。
買い物も銀行口座の手続きもオンラインで可能になり、人ではなく機械で済ませることができる。スマートフォンがあれば、インターネットやアプリを片手に、分からない言葉をオンラインの辞書やグーグルトランスレーターを使って、その場をしのぐことができる。つまり、現代においては、自分の脳や言語能力を使わなくても、テクノロジーがある場所であれば、海外で生活できるようになってしまったのです。
このようにテクノロジーに頼ってばかりの生活であっては、イマージョンを実行したとしても、その長所をフルに生かすことができず、言語習得にも過去に見られた程の効果は得られないと考えられるでしょう。
イマージョンにおいて最も大切なことは「その言語が話されている環境に自分を置くこと」です。いくらその言語が話されている土地だからと言って、家にこもってYouTubeで日本の動画を見てばかりいたり、日本人の友人やコミュニティ内でしか交流を図らないでいたり、スマートフォンやインターネットに頼りきりで現地の人と会話をしないでいたりすれば、現地の言葉は身につきません。
また、残念なことに、言語というのは筋肉と同じようなもので、衰退もします。使わないでいると上達しないどころか、どんどん忘れてしまいます。大人のイマージョンの難しさは、どれだけその現地社会へ飛び込むことができるか、そして、その社会に馴染み、生き抜くことができるかという精神面でのタフさが求められるところにあるかもしれません。
「トロント」という場所におけるイマージョン
留学という形でイマージョンを考えている場合、留学先がどのような場所であるかを事前に知っておくことが大事です。事前に知識を蓄えておくことで、現地での生活によりスムーズに馴染むことができます。
では、トロントを英語の留学先に決めた方は、イマージョンという面で、どのような事に気をつけるべきでしょうか。
まず、トロントでは英語が四六時中話されているわけではないということを念頭に置いておいてください。トロントには、世界各国から200以上の民族が集っており、市内で話されている言語も160を超えると言われています。道を歩いていても、英語以外の言語が普通に飛び交っているのが日常です。英語に自分の身を置くという面では、努めて英語が話されている場所を自ら求めていかなければならないのが現実です。
また、トロントでは英語のネイティブスピーカーに出会える機会は少ないと考えておいてください。上記の通りトロントには移民が多く、英語が第二言語である人たちがたくさん暮らしています。自国の言葉の訛りが残っている人もたくさんいます。
それでも受けて入れてもらえる懐の深さがトロントにはあります。それが居心地の良さ、住みやすさにつながるわけですが、一方でその多言語環境から、トロント生まれ・トロント育ちであっても、母語が英語でない人もおり、またそういったいわゆる移民「2世」の英語には、母語の訛りが色濃く残っている人も数多くいます。
トロントという場所だからこそ、日本でよく夢見がちな「訛りのないキレイな英語」を話す人たちに出会う機会は少なくなると言えるでしょう。
トロントで英語を学ぶということ
結論から言うと、トロントにいれば自然と英語が身につくかといえば、答えはノーです。近年では、日本人の移民も増えつつあり、日系コミュニティが拡大していることから、日本人にとっても随分と暮らしやすい環境になりました。それは逆を言えば、日本語の誘惑が身近に存在するということでもあります。
真剣に英語を学びたいという人には、大学やカレッジなど、より現地の生徒が多く出入りする機関で英語を学ぶことが望ましいでしょう。また仕事も、日本食レストランなど日本人が多く勤める場所ではなく、できるだけ現地の人が多く勤める場所を選ぶなど、英語環境を自ら求めていく姿勢が大切です。
トロントという場所は、本当に世界の縮図と言えるほどに多文化な都市です。そんなトロントに住む多くの人にとって英語とは、生活する上で必要な一言語に過ぎません。そういう意味では、英語のイマージョンにはあまり向いていない都市かもしれません。
英語習得のために、英語一辺倒になることも大切ですが、トロントという場所の魅力を最大限に活かした留学をするのであれば、多種多様な文化・言語・人々に触れ、違いを受け入れ尊重し合いながら共生していくおおらかな心を学ぶということも大切なのではないでしょうか。
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この記事を書いた人
トロント在歴13年目を迎える文化と言語とお笑いが大好きな関西人。ヨーク大学言語学部卒。TESOL・CILISATを取得し、語学学校カウンセラーやESL講師、日英通訳などを経て、現在、日本語教師&フリーライターなどをしている。