【家賃交渉のコツ】アメリカでも意外と人情がモノをいう?

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O Palsson

海外で暮らしていく上で出費として重くのしかかってくるのが家賃。私の住むニューヨークもそうですが、アメリカの大都市は概して家賃が高く、しかも毎年のように高騰しています。しかし、家賃交渉なんて英語だし、現地の事情もよく分からないしお手上げ。という方も多いはず。私自身、3年間同じアパートに住んでいる間に、図らずも大家さんと2回交渉しなければならない事態が生じました。その中で、アメリカ人にも意外と(?)人情が通用するのではないかということも経験しました。その経験も踏まえ、家賃交渉をうまく進めるコツをお伝えします。

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アメリカ・ニューヨークの賃貸事情

ニューヨークのアパートは貸し手市場のため、大家さんサイドの立場が優位で、賃貸料が毎年値上がりするのはざらで、月50ドル以上も上がるなんてことも珍しくありません(戦前から住んでいるような古いアパートの入居者には、値上げの上限が適用されるところもあります。)。

入居の際は、日本でいう礼金というものはなく、敷金の代わりに家賃1カ月分をデポジットとして払うのが一般的です(退去時に返金あり)。不動産会社(日系・米系)を通して契約した場合、不動産会社にもコミッション(手数料)として、大抵年間の家賃の額の15%程度(2か月分弱)を入居者が支払います。

不動産会社を通さない場合は、学校や勤め先からの斡旋や、オンラインのサイトcraigslistなどで探して、自分で大家さんやルームメイトに問い合わせをします。

最初の契約はほとんどの場合、先方の提示する家賃を払うことになりますが、1年あるいは2年ごとの契約更新の際、大家さんサイドから提示された条件が厳しい場合などには交渉することになります。

交渉エピソード1:値上げ額について

私は現地の日系の不動産会社を通してアパートのシェアルームを紹介してもらいました。

私の部屋の場合はルームシェアの中でも、よくある代表者一人が契約人となってシェアメイトを探すのではなく、それぞれのテナント(入居者)が大家さんと直接契約するという形式をとっており、退去の際もそれぞれが基本60日前に通達するというルールでした。

大家さんはユダヤ系アメリカ人の穏やかな男性で、日本人のテナントは家賃を滞納せず、パーティで騒いだり部屋を破壊したりすることも少ないので気に入っているようでした。

2年目の更新で75ドルアップ!?

契約は1年ごとの更新で、「2年目に月50ドル上がる」ことは聞いていました。しかし、2回目の更新時に、大家さんからいきなり「今度家賃が75ドル上がりますので了承お願いします。」と一方的な通達のメールが来たのです。

値上げ額も大きいですし、私は最初の契約の際に不動産会社から「住居人は法律で守られているので家賃増額には50ドルの上限がある」と聞いたと思い込んでいたので、青天の霹靂でした。

しかし、大家さんに確認すると「このアパートにはそんな上限はない。増額についてはnon negotiable(交渉不可)だよ」と、けんもほろろな返事。半分狐につままれた気持ちで、とりあえず不動産会社に電話して確認してみることにしました。

そして、大家さんに(恐ろしいことに了承の催促メールも来ていたので)悪あがきとは思いつつ、私の苦しい事情(当時は働きながら大学院の学費を払っていました。)をさりげなく盛り込んで返信してみました。

「75ドルの値上がりを払いたくないという訳じゃないんですが、私はまだ学費を払っている身ですし、会社のお給料がそれほど上がる保証もないんです。50ドルの上限があると思っていたので、とりあえず不動産会社に確認するまで少し待っていただけませんか。」

それから、お世話になった不動産会社の担当者さんに問い合わせると、やはり上限については私の勘違いのようでした。

不動産会社の人に交渉を進められる

しかし、気さくで親切な担当者さんは、「あなたは良いテナントさんですし、あの大家さんは面と向かって言われると押しに弱いので、交渉してみたらどうでしょうか。」とアドバイスしてくださり、さらに「私からも口添えしてみます」と仰っていただきました。

それが功を奏したのか分かりませんが、後日、大家さんから「今度会って話そう」と連絡がありました。

お会いして和やかに挨拶を交わすと、大家さんはいつものように穏やかな口調で「学費はいつまで払うんだい。」と切り出し、来年いっぱいだと答えると、「君に学費を払うという事情があるなら、こちらの経済状況についてはこちらでなんとかするよ。」とにっこり笑顔を見せてくれたのです。

その結果、2回目の更新は50ドルの値上がりで了承してもらえることになりました。

交渉エピソード2:契約内容について

さらに1年が経ち、3回目の更新が近づいてきたときのことです。

前回は融通していただいたし、不動産会社の担当者から「最近この近隣は人気が出てきて周辺の物件も値上がりし、大家さんは本当はもっと家賃を上げたいみたいです。」と聞いていたので、今度の値上げは仕方ないなと覚悟していました。

そこで、大家さんから75ドル上がると言われたときは、即座に了承しました。

値上げだけじゃ足りない?

それで済むと思いきや、大家さんは今度は「契約内容について私のルームメイト(中国人女性)も呼んで3人で話し合いをしたい。」と言ってきたのです。

ルームメイトは、私にとって4人目のルームメイトで、仕事の都合で西海岸の自宅に旦那さんを残し、単身ニューヨークに引っ越して来ていました。

大家さんは今度は何を言い出すのだろうと、ビビる私。ルームメイトと一緒に出向くと、「アパートを私とルームメイトの二人での合同契約」にして、「1年間は契約破棄(つまり退去)してはいけない」という条件に変更したいと要望してきたのでした。

大家さん曰く、「最近は、短期間で契約を破棄して退去する人が多く、その度に掃除を入れたり、次のテナントを探したりするのは手間がかかりビジネスにならないんだ。」とのことでした。

1年縛りの契約内容に?

実はこの「1年縛り(ないし2年縛り)」は、ニューヨークではよくある契約で、中途退去の場合は違約金を払わなくてはなりません。しかし、私たちにとっては突然の要求だったし、この条件を飲むのは、正直非常に難しい状況がありました。

なぜなら、当時の私はちょうど大学院を卒業したばかりで、仕事で西海岸への異動の話も出ていたし、ルームメイトは引っ越してきたばかりで、今後1年間今のアパートに住み続けるかどうか見通しが立たない状況でした。

それに、引っ越すのはそれぞれに事情があってのことなのにと、なかなか受け入れられませんでした。

ルームメイトが交渉するも・・・

大家さんは相変わらず穏やかな態度でしたが、ルームメイトがいろんな譲歩条件を出してみても、ビジネスライクな言い方のためか、「No」の一点張り。「貸し手は法律で守られているんだ」「ビジネスにならない」と埒があきませんでした。

私は、いつも優しかった大家さんが何だか人が変わってしまったみたいで、だんだん悲しくなってきて、思わず「あなたのそんな言い方は怖い」と言いました。

すると、大家さんは少しショックを受けたようで、「私は怖がらせてるんじゃないよ。どうしてそんな風に思うんだい。」と聞いてきました。

切実な思いを訴える

そこで、私は、

「これまでこのアパートに3年間住み続けて、家賃もきちんと払って迷惑もかけず、良い思い出もたくさんあるのに、そんな厳しい契約内容になってしまうなんて。何かお金が必要な事情があるのかもしれませんが、私が信頼されていないみたいで残念です。」

「時期ははっきりしませんが、新しいキャリアのために西海岸に引っ越すことになるのは、自分の人生にとって嬉しいことのはずなのに、大家さんにもルームメイトにも迷惑をかけてしまうことになるのは不本意です。」

と切実な思いを必死に訴えました。

話しているうちに3年間の思い出が去来し、逆に今まで恵まれた環境に居させてもらってきたんだなぁと思うと感謝の念も溢れてきて、最後には感極まって、「今までのことを本当に感謝しています。」と泣いてしまいました。

大家さんが出した条件

そんな私の態度に驚いた大家さんは、「落ち着いて。君に泣いてほしくないよ。」となだめ、「どうして欲しいんだい。」と尋ねてきました。

そこで、冷静になって考えて「退去はこれまでどおり60日前の通知にしてほしいです」。すると大家さんも、「分かった。じゃあ、そうしよう。」

こうして、無理かと思われた交渉は最終的に「退去は借り手が少なくなる冬季を除く。」という中途半端な条件が付いたものの、何とか受け入れてもらえたのでした。

まさか、こんなところで自分が「女の涙」を使うとは。あまりの恥ずかしさに「upsetしてごめんなさい」と言うと、大家さんはいつものように穏やかに微笑み、「君だけだよ、upsetしてるのは」と言いました。

そして、多少の気まずさを残しながらも、「ありがとう」と3人でハグをし合って別れました。同い年にもかかわらず、結婚後おばさん化したというルームメイトは、後から「私もあなたの純真さを見習うわ!」と、冗談半分、本気半分(?)で言っていました。

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主張を訴える文化のアメリカと人情

以上は、あくまで私の個人的な珍しいエピソードでしたが、訴訟社会と言われるアメリカでも、自分の事情や主張を訴える際に、相手の事情も酌量して真実を誠実に話すこと、そして人情に訴えることは大切なことだと思います。

弁護士が陪審員の心情に訴えかけて勝訴を勝ち取るシーンは裁判映画やドラマでもよく見られます。

銀行やインターネットのサービスでも、カスタマーサービスに自分がいかにロイヤルカスタマーかを訴えて、残高不足による口座維持費を免除してもらったり、月額料金をお得にしてもらえたりする裏技もあるくらいです。

ホームレスも主張

また、ニューヨークではときどきホームレスを自称する人が地下鉄の車内に乗り込んできます。「皆さんこんにちは。お邪魔してすみませんが、ちょっと聞いてください。」と丁寧な挨拶を始めます。

その後、いかに自分が不遇な境遇にあるかをとうとうと演説し、最後に「ゴッド・ブレス・ユー」と華麗に締めくくって、僅かな施しを受けながら次の車両に移って行くといった光景にも出くわします。

日本の社会では、揉めごとはなるべく避けようとし、特にお金についてとやかく言うのははしたないとする傾向がありますが、こちらではホームレスでさえ訴えてナンボの文化を感じます。そして、意外にも人情による情状酌量が結果を大きく左右しているように思うのです。

したがって、いつも誰にでも通用するということではないかもしれませんが、「君のためならやってやるよ。」的な普段からの関係性と雰囲気や、人と人との信頼関係を作り出すコミュニケーションが鍵になるのではないかと思います。

どうやって相手の人情を引き出すか

ハーバード大学の交渉術のベストセラー本である「ハーバード流交渉術 (知的生きかた文庫)」によれば、「交渉」=共同での意思決定をするためのコミュニケーションであり、成功する交渉の主なポイントは次の4点です。

1.問題と個人とを分けて考える。
2.相手の譲れないポイント、譲歩できるポイントを探り、相互にメリットのある解決策を導く。
3.相手の立場に立って問題を一緒に解決する方法を考える。
4.可能であれば、客観的な基準(法律・前例など)を用いて評価する。

Amazon ハーバード流交渉術 (知的生きかた文庫)
Amazon ハーバード流交渉術 (知的生きかた文庫)

一般的に、交渉事はビジネス以外にも友人や恋人・家族間でも発生するものです。自分はこれが欲しい、絶対譲れないと最初からぶつかるのではなく、相手と協議しながら自分の問題と同時に相手の問題も一緒に考え、お互いが納得できる着地点を見つけていくことが大切だと説いています。

1回限りの取引の場合もあれば、交渉後も関係が長く続く場合もありますが、お世話になる大家さんとは、できるだけ関係を傷つけることなく、円満に交渉を成立させたいものです。

そのためには、相手という人間を知り、自分も相手に心を開き、必要があれば、相手や自分の事情や感情を共有することが長期的に見て良い結果を生むのではないでしょうか。

以上を踏まえた上で、私たち日本人にとって、アメリカという国で英語を駆使しての家賃交渉は、どのようなことに留意すればよいか自分なりにまとめてみました。

アメリカでの家賃交渉のコツ

一旦、待ってもらう

とっさのことだと、うまい返答ができないものです。値段や期間その他どこまでなら受け入れ可能か、どういう風に自分の主張を組み立てるか、一旦落ち着いて確認したり、家族や周りの人に相談したり話し合ったりして、作戦を練る時間を稼ぎましょう。

できれば文書で交渉する

ネイティブでない私たちにとって、英語で、しかも口頭で相手と対等にやりあうのは、ハードルがだいぶ高いものです。

メールや手紙であれば、返事を考え、英文を組み立てる時間も生まれるので、文章を練って丁寧に自分の事情を述べつつ、希望する条件を提案する方が落ち着いて冷静なやりとりができるでしょう。

周りに相談できる人を持つ

自分一人で、どうしていいか分からず悩んだり、「こんなのはあり得ない」と判断したりせずに、同僚や不動産会社や周りの信頼できる人に相談すると、どこまでが許容範囲かの客観的な基準を持つことができます。

私は、不動産会社が同じ日本人で、地元の法律や大家さん側の事情にも通じているため、ちょっとしたトラブルがあると何かと相談させていただき、頼りになりました。

手数料を節約するため自分でアパートを探す人もいますが、個人的には、以上のような理由から不動産会社にお願いしてよかったと思っています。私は、同じアパートに長く住んでいた最初のルームメイトにも、前例などについてヒアリングをしました。

普段からの付き合いを大切にする

大家さんや不動産会社に優良なテナントとして好印象を持ってもらい、普段から良い関係を築いていくことも大切です。家賃を期限までにきっちり支払うことはもちろん、姿を見かけたら笑顔で挨拶も忘れずに。

私は入居の際、日本式に、大家さんに手土産としてカステラを持参したのですが、他の人はあまりそういうことはないようで、かなり喜んでもらえました。

その他、日本に帰省してニューヨークに戻ったときや家族が日本から来て泊まるときなどに、ちょっとしたお土産を渡すなど気遣いとコミュニケーションを欠かさないようにしていました。

そして、交渉の際にはいくら辛く大変な思いをしても、「問題と個人とを分けて」考え大人の対応をして、その後の付き合いには影響を及ぼさないよう努めるのが長期的に見て良い結果をもたらすと思います。

まとめ

いかがでしょうか。いくら文化の違うアメリカといえども、人と人との付き合いの基本には共通するものがあります。そしてビジネスにおいては、事務的な日本よりも、むしろ人間関係やコネクションが重要になるのがアメリカだと思います。

お金の話が絡む交渉事は厄介ですが、住居を提供してくれる大家さんに対して心を尽くし、知恵を尽して、上手にお付き合いをしていければと思います。この文章が少しでも参考になりましたら幸いです。

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この記事を書いた人

Sattyshamrock
Sattyshamrock

会社員生活の傍らNY留学の夢をかなえるべく2012年に渡米。ニューヨーク市立大学バルーク校MBA修了。2017年7月よりロンドンに移住。まだまだ知らないヨーロッパのダイナミクスと魅力を発見する日々です。

https://twitter.com/Sattyshamrock

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