「だって英語ができないから」は思考停止のサイン?英語の公用語化に対する私見
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先日は「Thanksgiving」というアメリカの祝日でした。この日はアメリカ人は一般的に、家族で「Thanksgiving dinner」と呼ばれる夕食を楽しみます。私はいつもこの日になると、10年ほど前の思い出が心に蘇ります。この思い出は、昨今の英語公用語化に対して考える契機になりました。
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10年前の「Thanksgiving」
当時、私は会社の研修のためサウスカロライナ州におりました。引っ越したばかりで友達もおらず、寂しいThanksgivingを過ごしておりました。
夕食のチャーハンを作っていると、携帯電話がけたたましく鳴り響きます。片手にフライパンを持ったまま電話にでると、シカゴに住んでいた時の友人(日本人女性)からでした。
電話口で号泣
彼女は最近、日本に留学経験のあるアメリカ人ボーイフレンドができ、ハッピーなはず。ところが、ルンルンワンダフルライフとは裏腹に、「あ、あのー、その・・・なんというか・・・」という言葉から始まり、後は号泣。
ワンワン大泣きする相手に困惑しながらも、私はまったく話の内容がつかめません。頭のなかに、「デートレイプ、HIV、妊娠、ムリヤリ覚せい剤、暴力、金のタカリ」など、最悪の事態に備えてキーワードが並びます。
彼女をなんとか落ち着かせ、順を追ってを話させてみると、要は彼氏にアメリカ人のパーティーに連れて行ってもらったところ、英語が全く解せず、孤立したとのこと。
私は上段のようなキーワードを頭に思い浮かべていたため、拍子抜けし、「なーんだ、そんなことか」というと、彼女は「そんなことじゃないわ」といってきます。相手が落ち着いてから私が考えていたことをに伝えると、彼女は絶句していました。彼女はまだアメリカの恐い一面を知らないようでした。
アメリカ人の彼氏と付き合い始めて・・・
彼女の話をまとめると、下記の通りです。
日本の大学院に留学経験のあるアメリカ人ボーイフレンドと付き合い始めて、自分の英語力のなさを実感する。彼氏とは日本語でやり取りをしているが、彼氏が生活の中に入ってきたことで、どうしても英語と向き合わないといけない場面が増えた。
彼氏の友人が主催するパーティーに行ってもアメリカ人ばかり。日本人は私だけ。英語で何かよくわからないが話しかけられ、まったく話がかみあわない。そして今日、Thanksgivingのディナーで彼氏の家に招待されたが、彼の母親と話ができず、後で彼氏に叱責を受けた・・・
留学経験もなく会社の命令で駐在をしている彼女に流暢な英語力を求める、その彼氏にちょっとした違和感をも感じましたが、日本語を流暢に解する彼氏(私は会ったことがありません)は、相手にも自分と同等のコミュニケーションスキルを要求したいというところでしょう。
私も正直、アメリカで英語のまったくできない日本人の女性とデートする自信はありません。
「英語ができないから」の言い訳
しかし、気になるのは彼女が二言目には、「英語ができないから」 「英語ができないから」と呪文のように言い訳をすることです。そこで私は、「英語ができない」という彼女の主張に疑問を呈しました。
- 彼女
本当にそう思っているの?
わたし- 彼女
???そうなんじゃないの?
じゃあ、適当に英語に訳してあげるから、Thanksigivngの飯、食った時の感想いうてみ?なんて相手の家族に言いたかったの?
わたし- 彼女
かんそう・・・?
うん、だから、「げ!こんな料理の技術とはいえ、よくもまあ、自分のお子さんを成人になるまで育てましたね!」と言いたかったのか、それとも、「うん、まあ、70点、ってところですかね!?努力賞!」と言いたかったのか、それとも「うわ!あんまり美味しくて、頭から国旗が出ました!」と言いたかったのか教えてよ。オレに対してだったら、何でもいえるじゃん。別に彼氏はいないんだからさ。
わたし- 彼女
・・・べつに・・・ なんとも・・・思わなかった
ここにポイントがあります。
よく、二言目に「英語ができないから」と言っている人は、往々にして日本語でもいいたいことがないのではと思うのです。
この彼女の場合は、英語力とは関係なく、ただ単にアメリカ人との共通の話題を持てなかったことが原因にあるのではないかと思います。アメリカ人と会話を成立させるのに英語力は必須ですが、他の要因も大きく関係することに英語が苦手な人は気づいておりません。
英語力の向上を決意する彼女
私と長時間話し込み落ち着いた彼女は、なんとか英語力を向上させるため、TOEICのテストを受けることを決心しました。問題集を買い込み、週二回英語の授業を履修し始めました。
半年後
またもや電話越しで彼女の声が浮かないのです。どうも伸び悩むどころか、どうやらTOEICの点数が落ちている様子なのです。一体、どういうふうに勉強をしているのか尋ねてみると、問題集を一日一ページやっているとのこと。
語学の習得のコツは短期集中なので、あまりのゆるいペース配分に私が絶句をすると、彼女は「コツコツやっていきたい」と譲りません。でも、本当にゆっくりコツコツとやるのが正解だったら、今頃点数が伸びているはずです。
私がその点を指摘すると、彼氏も同じことを指摘したといいます。また話していくと、彼女は本音を吐露し始めました。
曰く、アメリカに来るまで、生活をすれば自然と英語ができるようになると思い込んでいたのこと。しかし現実は厳しく、英語は伸びず、アメリカ人との関係も思うようにうまくいかない。この間、彼氏がパーティーで他の友人に対し、自分を「Friend」と紹介した。それを抗議したいが、うまくいいだせない。また、自分の意見をいうことを重視するアメリカの文化自体、好きではない・・・
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いきなりアメリカ人にはなれない
私は大学時代、「議論と説得」という授業を履修したことがあります。担当教授はアメリカの大学院で「Speech Communiation」を修めた人で、英語で自分のいいたいことをスピーチする授業です。
日本語でも公で話す訓練を受けたことのない私の世代です。どうにも咬み合わなく、私のスピーチは型通りのぼそぼそっとしたつたない形で終わるのが常でした。当時の私はこの授業を「ご飯にジャムをかけるような行為」と表現したものです。
アメリカの教育では、小学校のうちから生徒の前で簡単な発表を行うなど、プレゼンの訓練を受けています。日本人がアメリカに来て英語で急にこれを行うのはムリがあり、私も大学院時代、プレゼンに非常にナーバスになったのを憶えています。
日本人にしては「饒舌」「多弁」「厚顔無恥」な私ですらそうなのです。彼女にとっては非常に酷な状況と言えましょう。彼女は控えめな性格で、自分でしゃべるより他人の話を聞くのが好きなタイプです。彼女が何か言いたいとき、私から助け舟を出して、彼女の意見をまとめてあげなければいけないことは何度もありました。
外国語習得と母国語の能力
もうカンの良い読者の方はお気づきかと思いますが、実は外国語の習得には母国語の能力が大きく関係してきます。
日本語でも自分の考えをまとめることが苦手な人は、外国語の習得も苦手になります。外国語では表現できる幅が狭いため、どうしても自分が何を言いたいのかはっきりせざるを得ません。はっきりできない限り、外国語で自分を表現することができないためです。
英語公用語化について私見
最近、日本では職場での英語の公用語化が叫ばれています。私の考えではいくつかの壁が考えられると思います。
1. 英語を公用語とするうえで、日本語でも意見をまとめる能力が低い人は絶望的に英語を習得することが困難となる。簡単にいえば日本語でレポートを書いても訳の分からない文章を書く人は、英語でレポートを提出することは不可能。
2. 英語では日本語と比べて敬語表現が少なく、それが日本の職場に馴染むのか。また英語では主語を明確にせざるを得ず、場の倫理によって、責任の所在を不明にする文化との折り合いをどうつけるのか。
3. 日本語と英語の文章の構成が大きく違う。英語は結論が最初に来るが、日本語は起承転結。日本語の起承転結の流れで英文を書くと、まずnativeは理解しない。だからと言って結論を先に書くと、日本人の感覚では、「キツイ」自己主張の強い文章になる。
4. 日本では年功序列のため、数多くの役職がある。アメリカでは年功序列の傾向が少ないため、日本ほど役職数が多くはない。よって、日本の役職名を英語に訳出するのは大変難しい。英語が公用語化すると当然、役職を削らざるをえず、降格になる人も出てくる。
ということが考えられると思います。これらの問題は英語力の問題だけでなく、その奥に潜んだ企業文化や日本文化に関連してくるため、おいそれと変えられないと思うのです。
上記の理由から、私個人は単純に英語公用語化に賛同できないというのが本音です。
彼女のその後
結局、友人はアメリカの会社を退社して日本に帰り、現在では日本で幸せに暮らしています。
私は留学、海外経験が全てではないと思うのです。人によっては海外に出て幸せを見つける方もいらっしゃるでしょうし、その逆に海外がどうしても合わず、日本で日本語の環境で自分の幸せを見つける人もいて、いいはずです。
英語公用語化を叫ぶ方は、こういった変化を予想しているのか、私はお会いして話をしてみたいです。英語が公用語になって、一番割を食らうのは私のような、おじさん世代です。私はすでに英語で仕事をしているからこそ、自信を持って申し上げることができます。
グローバリゼーションの波
ただし、グローバリゼーションの波は止まらないようです。私の考えではインターネットが普及し始めた1995年ぐらいから、どうもこのグローバリゼーションは本格化したように思います。
1995年の当時、私は大学に入学したばかりでして、右も左も分からないバカ大学生でした。この頃、東京の中央線では飛び込み自殺が多発していたのですが、私の留学とも関連がございます。このことに関してはまた項をあらためて、お話いたしましょう。
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この記事を書いた人
初めまして!日本の大学を卒業した後、米国の大学院に留学し漂流し続けること10数年。今年で米国生活16年目になります。お笑い好きの40男が加齢臭を漂わしながら、ミシガン州デトロイト近郊から海外生活と留学の知恵や経験をお届けします。
だって、私、英語ができないから…